ヘルスケアゼミ
HEALTHCARE SEMINAR
一般人が「学会に参加する」学びなおしのメリットとは 更年期と加齢のヘルスケア学会の満岡孝雄先生に聞く
当該記事は掲載元である主婦の友社『オトナサローネ』の協力を得て収録します。
メノポーズカウンセラー資格を認定する「NPO法人更年期と加齢のヘルスケア」は2002年4月に発足した研究会を母体とし、カウンセラーは「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」にも属しています。
一般に、学会は論文を投稿する「学会誌」を持ち、また年に1回以上の「学術集会」を開催します。「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」の場合、24年度の第22回学術集会は10月27日(日)オンライン開催。全国どこからでも参加可能です。
同学会の特徴は、医学をベースとしながらも「医療者のみならず、一般の実務家、生活者にも広く門戸を開いている」点でしょう。第22回学術集会長である満岡内科・循環器クリニック院長 満岡孝雄先生に、その狙いを聞きました。
なぜ「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」は一般生活者の参加を歓迎するのか?
――取材者である私、オトナサローネ井一は同学会の会員ですが、学術集会に「会員ではない人」の参加も歓迎していることは知りませんでした。
はい、参加費が1000円ほど高くなりますが、歓迎しています。医療系の学会は基本的にほとんどが医師、コメディカルを対象としたクローズドの組織ですが、「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」のような「予防医学」という分野は少し特殊です。生活者のみなさんが知識を自分のものとして取得し、日々の暮らしの中で応用していただく必要がある分野だからです。そのため一般の方々に参加していただき、得た知識を自分自身で実践してほしいという学会の意図があります。
――私はこのほか、「日本抗加齢医学会」にも参加しています。同学会も入会資格をさほど厳密には問いませんよね。
私も同学会の評議員の一人です。抗加齢医学も究極的には予防医学で、専門別の縦割りを越えて、アンチエイジングというキーワードでいろいろな領域の専門の先生がたが横の情報交換を行い、お互いに専門外の知識を深めていこうという学会です。
先端の抗加齢の知識を一般の方々にも広めて、この高齢化社会を健康でハッピーで過ごしていただきたい。高齢化社会の中で早々に引退するのではなく、社会参加し続けて社会貢献を維持するのが生きがいの上でも大事だと考えているため、スタンスが同じになるのかもしれません。
「更年期と加齢のヘルスケア学会」はもともと「更年期の正しい知識」、中でも更年期障害の治療法にホルモン補充療法(HRT)があるという知識を広く一般に普及しようと設立されました。ですが2002年、米国国立衛生研究所のWomen’s Health Initiative (WHI) Hormone Programが本来のHRT対象者以外を大量に含んで実施され、間違った方向に振れた結果が報告されたことで、日本のHRT実施はいったん止まってしまいました。そののち、諸先生方の10年以上の地道な努力でやっと本来あるべきHRTに戻ったのが昨今です。
最終目的は「知識を得て、自分の健康管理を自分で選び、行えること」
――HRTは乳がん、血管系疾患のリスクをあげてしまうという忌避感があります。
まさにWHIがその印象を作りました。実際は、閉経直後すぐにHRTを開始した場合、骨粗鬆症だけでなく、冠動脈疾患など血管系イベントも抑えられるデータが出ています。何よりHRTが女性の老化を先延ばしするというのは本当で、HRT未実施ならば閉経後10年か15年で老化の症状が出てきてしまうところ、続けている人は5歳10歳若く見えてきます。HRTが女性にとって高齢社会を乗り切るための大事なアンチエイジング手段であることは間違いありません。
本来HRTは更年期障害を治療するために研究されてきたのですが、いまや女性の高齢期の健康をサポートするために必要という考え方に医学界がシフトしています。とはいえ、更年期障害の治療そのものは、保険点数が低いという仕組み上の問題もあり、積極的な治療が全国どこでも受けられるとはいいがたい状態です。
――実際、私が深く更年期障害の取材を始めたきっかけは、2019年から都内ですら3つのクリニックでHRTを断られたという体験がベースです。
ですが、アンチエイジングというキーワードで考えると、ホルモン治療は男性にも女性にも非常に重要な治療手段です。一般の人にもそれを認識してもらいたい。年をとるのは自然なことだと思っているけど、いまや加齢そのものが病気だという考えに医学界はシフトしています。老化というのは病気であり、老化しないように暮らしていく必要がある、このことを一般の人に認識してもらう必要があるのです。
ネットやSNSで間違った知識が拡散する中、自分で正しく判断できる知識を持ってもらいたいというのが、当学会に皆様をお誘いする理由の一つです。参加しても最初はちんぷんかんぷんかもしれないけれど、聞いているうちに耳学問でわかってくるものなのです。
――それは確かに。私も最初、さっぱり意味がわかりませんでしたが、何度も聞いているうちに理解がより容易になっていきました。
でしょう? ですから一般の方々にどんどん参加して正しい知識を得て、ご自分の健康維持にどんどん役立てていただきたい。創設理事長の小山嵩夫先生がメノポーズカウンセラー制度を作る際も、受験資格は設定せず、勉強して知識を得ることを重視しました。試験内容が多岐に渡り難しいものの、落とすための試験ではありませんから、更新までに認定単位を多くとることを条件に合格とする弾力的な運用も行っています。
勉強して、職場や地域などで周囲の人にその知識を提供していただくことが重要です。メノポーズカウンセラーを志す方の中には自分自身が大変な更年期症状を経験した方が多数います。どこで診察してもらうかの選択からつまづき、中にはキャリアを諦め仕事を辞めた人も少なくなくありません。正しい知識をきちっと持ち、また学会で横のつながりを得てお互いに実践方法を共有することで、活動に広がりが出るように感じます。
学会に参加する意義、学び以外に「横のつながりを作れること」も大きい
――学びから離れた私たちの「学びなおし」という視点で伺います。スクール等ではなく敢えて学会に参加することにどのような利点があるでしょうか?個人的には「なんかカッコいい」という点も見逃せませんが(笑)
医師にとっても、学会は最新知識を得る場であると同時に、横のつながりを作る場です。メノポーズカウンセラーは現在3~400人、学会員が550人くらい、多くが自身の知識の整理のためにカウンセラー資格を取得し、研修を受けています。そのため、学会側も研修事業に力を入れています。
「人生100年時代」とは、女性ホルモンのサポートを受けられない時間が更年期の50歳以降、人生の半分残っているという意味でもあります。そこにHRTはじめ医療的なサポートを選んで受けられるようになればまた違った人生が開けてくるでしょう。心身ともに健康な状態を長く保つことがある程度できるのだと、先端の正しい知識を獲得できるのがまず第一。
もうひとつ、新しい体験をしながら、新しいつながりを作る魅力も見逃せません。若いころはぼくたちも、学会では自分の発表を無事終えることで精一杯でした。先日金沢で開かれた不整脈学会に行ってきましたが、今でも自分の発表が終わったらほっとします。そして、ほっとした後に出かける観光は昔も今も格別で(笑)。夜に開かれる懇親会でいろいろな先生とお話をして横のつながりを作り、新しい知識を教えてもらうのも大事な仕事のひとつです。メールアドレスを聞いておけばあとから質問を送れます。
――時間のない中、学び方という点ではどうでしょうか。
最新の知識というものは、その分野ごとに効率的な取得方法があります。医師ならば普段は医学論文を読みます。大抵は大学病院勤務時代、教授から週1回1時間ほどの抄読会の薫陶を受けます。教授が世界中の論文から大事だと思うものを6つほど選んでくれるのですが、これが若い医師の論文の読み方のトレーニングを兼ねているんですね。その後開業したり、病院勤務になると、個人での勉強に移行します。このとき大切になるのが横のつながりで、自分がわからないことを相談する相手を作っておくことが重要なのですね。
メノポーズカウンセラーは更年期障害という病の状態に寄り添うプロとして、過労で燃え尽きないようにしつつ自分の知識を再充填できる時間も作り、新しい知識を顧客に提供していく意識が大事だと思います。ですが、医師もいちど開業してしまうと毎日の仕事に追われてなかなか勉強の時間を作るのが大変です。なので、あとは「やり方」なのだと思います。
――勉強する時間の確保という意味でしょうか。なかなか学習を1日のルーチンに組み込めないため、一度の参加で一定知識を得られる勉強会は魅力です。
私は北海道で開業しており、学会の北海道支部を運営しています。一般の方々も北海道支部が開くオンライン勉強会に参加していて、メールで質問を受けることがあります。なるべく参加者みなさまの質問に答えられるよう、勉強会のあとはオンライン懇親会を設けて座談会のように話をしています。それでも足りなければあとでメールをいただき、それにお返事することで、自分自身の知識を深めていく場を作り出しています。わからないことを誰かに聞けるパイプがあることは非常に大事なことで、学会は参加するだけでそのパイプを作るきっかけが生まれるのがうれしい点です。
私は「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」第22回学術集会の学術集会長に任命をいただきました。いわゆる「学会に行く」というのがこの学術集会です。今回はオンライン開催ですが、各シンポジウムに討論の時間をとっており、ここで飛び交う討論を聞いているだけでも役に立ちます。対面には対面のよさがありますが、昨今は学会もオンデマンド配信を用意している場合が多く、手軽な分だけよい勉強の手段になるでしょう。
――しかし、仮にオンラインでも、知らない方々とご一緒することになるのはちょっと緊張します。いきなり参加してもいいのですか?
どのような学会なのかを知るために学術集会に参加してみるというのも意義があります。もし参加してみて興味を持てたら会員になり、研修会に参加してみるのもいいと思います。また、会員にならなくても、支部の勉強会ならばどなたでもOKというスタンスの場合があります。当学会にはメノポーズカウンセラーを志す方が多く属していますから刺激も受けられ、どうせ勉強するならカウンセラー資格も取りたいと考えるようになったら、ある程度勉強して試験を受ければその分だけ知識が身についていくでしょう。
最終的には自分の知識を深めて健康管理に役立て、また周囲の役にも立つことが目的です。かつては更年期の症状も数年我慢すれば抜けていくと考えていましたが、いまは積極的に治療して、自分の人生の目的をなるべく成就しよう、女性がそこでキャリア諦めることがないようにと社会も会社も対策を始めるようになりました。女性が活躍する社会にならないとこの先よりよい日本への道が開けません。大いに期待しています。
掲載先:主婦の友社OTONA SALONE
掲載記事:https://otonasalone.jp/428870/
寄稿:満岡 孝雄(北海道支部会長/満岡内科・循環器クリニック院長)