メノポーズカウンセラー Q&A
カウンセラーQ&A
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- Qそもそも、「更年期」って何ですか?
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A
「更年期」という言葉自体、特に40代以降の世代をターゲットにした婦人雑誌では当たり前のように目にすると思います。では、そもそも「更年期」って何を指すのでしょうか?その語源は、正確に掴み切れてはいないようですが、我が国で初めて「更年期」という用語が使われたのは意外にも1906年(明治39年)読売新聞に連載された小栗風葉という作家の小説「青春」の文中とされています。その中で、主人公の心情を表現する形容詞として「彼の四十から五十の間の婦人科の或る時期—女の終つた更年期の煩悶!」との記載がみられます。
現在では、 女性の一生のある時期、具体的には妊娠・出産可能な時期として認識される「性成熟期」と老年期の間の時期を指す用語とされています。何歳以上何歳未満というように年齢的な範囲が明確に規定されてはいませんが、生理(月経)の終わりを意味する「閉経」に至る日本人女性の年齢の中央値:約50歳というのを境として、その前後5年間計薬10年間という考え方が一般的です。
確かにライフスタイルの変化や不妊治療の進歩などにより、「更年期」の時期でも妊娠・出産の問題を抱える方も少なからずみられるようになりましたので、将来「更年期」と呼ぶ時期・範囲についての再考が行われる可能性はないとは言えませんが、現時点ではこの時期を表す用語と理解して下さい。
- Q「閉経」について教えてください。
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A
女性には、毎月或る時期に出血がみられることは誰でも知っていると思います。それは言わば生理現象ということで俗に「生理」と呼んでいますが、医学用語としては「月経」と言います。「月経」は、早い人で10歳くらいから始まり(初経)、どんなに長くても50代半ばには終わります。
ではどうして、女性には「月経」があるのでしょうか?それは、端的に言えば妊娠のための準備状態を作るためです。近年少子化が叫ばれていますので一生のうちで実際に妊娠する機会は、「月経」の総回数からみるとごく僅かということになりますが、その僅かの機会のために毎月「月経」という現象があるのです。月経の終わりすなわち「閉経」とは、卵巣がその役目を終えて、月経が完全になくなる状態を指します。
しかしながら、機械のスイッチが止まるように、「月経」は突然終わる訳ではありません。それまで月1回規則的に来ていた「月経」は、更年期を迎えると次第にそのサイクルが不規則になります。最初はどちらかと言うとそれまでより早く来る傾向になり、その後次第に間が空いていくようになります。どういう状況をもって「閉経」と判断するかについては、解釈次第でしょうが、前回の月経から12カ月以上月経が無かった時点とするのが一般的です。
ただ、これはあくまで自己申告に基づく判断となりますので、ご高齢の方の場合、正確な年月日までは判定出来ないこともあります。1990年代に、日本産科婦人科学会が調査した日本人女性の平均閉経年齢は49.5±3.5歳、その中央値は50.4歳となっています。また婦人科手術により子宮を摘出(卵巣は残す)した方の場合は、「人工閉経」と呼ぶ場合もありますが、出血の有無で判断出来ないため、血液中の女性ホルモンを測定することで「卵巣機能の状態」を評価します。
- Q「女性ホルモン」について教えて下さい。
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A
人間のみならず生物体には様々な「ホルモン」と呼ばれる物質が、その自らの生命維持のために存在します。
その中で、「女性ホルモン」と総称されているホルモンは、男性に存在しない訳ではありませんが、女性に優位に働くホルモンとして知られています。女性の場合、「女性ホルモン」は卵巣で作られますが、具体的には「エストロゲン」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という2つのホルモンが存在します。「閉経」の項でお話したように、「月経」は妊娠のための準備状態を作るためにありますが、この2つのホルモンがうまくバランスを取りながら「月経」を起こします。そしてこの2つのホルモンをコントロールするホルモンが、脳の中の下垂体という臓器から出ています。卵胞刺激ホルモン(英語のfollicle stimulating hormoneの頭文字を取ってFSHと略します)と黄体化ホルモン(英語のluteinaizing hormoneの頭文字を取ってLHと略します)がそれらのホルモンですが、これら4つのホルモンがうまく連動して、「月経周期」ひいては妊娠の準備状態に関わります。
それ以外にも特にエストロゲンは、骨の代謝にも関わり骨を強く保つ効果や、心臓・血管の動脈硬化の阻止に効果があったり、皮膚の皮下組織であるコラーゲン産生に関しても影響があります。「更年期」に入り、エストロゲンが卵巣から出にくくなると、のぼせ・ほてりと言った更年期に特有の症状が目立ったりしますが、長いスパンでみると閉経後骨粗鬆症や血液中の悪玉コレステロールの増加(脂質異常症)などにも注意する必要が出てきます。
- Q「更年期障害」の概要について教えてください。
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A
「更年期」という用語と同じく、「更年期障害」という用語も特に40代以降の世代をターゲットにした婦人雑誌ではよく目にすると思います。
産婦人科医師が主体の学術団体である「日本産科婦人科学会」では、「更年期に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」と定義しています。さらに続けて、「更年期症状、更年期障害の主たる原因は卵巣機能の低下であり、これに加齢に伴う身体的変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することにより症状が発現すると考えられている」としています。具体的な症状としては、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)、上半身に汗をたくさんかく、疲れやすい、肩や首のこり、眠れない・眠りが浅い、イライラする、気分がゆううつなど、実に多彩な症状がみられます。
女性は皆、一定の時期が来ると生理(月経)は必ず終了します。すなわち、卵巣機能は停止し女性ホルモンは出なくなります。そのことから言えば女性は誰でも、「更年期症状」を認める可能性はあります。しかしながら、現実には全くそれらの症状が出ない人や出ても気にならない人もたくさんいます。反対にそれらの症状がきつくて、治療を希望するレベルものであれば、それが「更年期障害」なのです。もし今ある症状が辛いのであれば、医療機関(更年期障害を扱うのは主に婦人科)を受診することをお勧めします。
- Q更年期の定義は、今のままでよいのでしょうか?
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A
教科書的には、「更年期」は主に女性のライフステージのある時期、具体的には性成熟期と老年期の間を指します。年齢的な範囲は明確に規定されてはいませんが、閉経(日本人女性の閉経年齢の中央値約50歳)を境として前後5年間という考え方が一般的です。確かにライフスタイルの変化や生殖医療の発達などにより、「更年期」の時期でも妊娠・出産の問題を抱える方もみられるようになり、今後「更年期」と呼ぶ時期・範囲についての再考が必要となる可能性はあると思いますが、現時点ではこれに代わる新たな定義は検討されていません。
- Q閉経についてその定義を教えてください
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A
「閉経」とは、加齢による永続的な卵巣機能の低下により月経周期が完全に停止した状態を指します。この用語は、1816年にガルダンヌにより初めて使用されたとのことです。どういう状況をもって「閉経」と判断するかについては、前回の月経から12カ月以上無月経が続いた時点というのが一般的ですが、これはあくまでその方の自己申告から判断することですので、ご高齢の方の場合、正確な年月日までは判定出来ないこともあります。
1990年代に日本産科婦人科学会が調査した日本人女性の平均閉経年齢は49.5±3.5歳、その中央値は50.4歳となっています。また婦人科手術により子宮を摘出(卵巣は温存)した方の場合、月経の状況で判断出来ないため血液中の女性ホルモンを測定し、エストラジオール(E2)値20pg/mL以下かつ卵胞刺激ホルモン(FSH)値40mIU/mL以上の状況をもって「閉経後の状態」と判断します。
- Qホルモン補充療法は、いつまであるいは何歳まで行えばよいのでしょうか?
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A
世界の多くのメノポーズ関連の学会で、ホルモン補充療法の適応疾患については明示されていますが、その施行期間や止める時期などについては規定されたものはないと思われます。確かにホルモン補充療法の施行期間は、その対象とする疾患により異なりますが、実際の臨床現場ではホットフラッシュを中心とした更年期障害や卵巣欠落症状を適応としたものが大多数であると思われます。そうなると止めるタイミングは、ホルモン補充療法を行わなくても更年期障害や卵巣欠落症状の症状が出現しないか、その症状が軽微で日常生活に支障がない時期ということになります。
しかしながら、更年期障害や卵巣欠落症状の程度や症状が出現しなくなる時期なども個人によりかなり差がありますので、一概にその施行期間や年齢を規定したくても出来ないのが現状です。従いまして、以下は私見も交えてですが、ホルモン補充療法をいつまであるいは何歳まで行うかについては、患者さん一人一人とその希望もふまえて決定していくものと考えます。すなわち、患者さんがそろそろ止めてみたいということであれば、その意見を尊重しますし、逆にできる限り行いたいという患者さんに対しては、ホルモン補充療法のベネフィットとリスクを十分理解して頂きかつ定期的な検査(子宮癌検診、乳癌検診など)をきちんと行った上であれば継続する方向でサポートするということです。
- Q閉経後1年たちますが、最近朝のこわばりと指の関節が痛みます。リウマチでしょうか?
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A
婦人科の更年期外来で診療を担当している立場から申し上げますと、閉経後の女性で朝のこわばりや手指の関節の痛みを訴える患者さんは少なくありません。参考までに申し上げますと、かつて慶應病院婦人科の更年期外来を受診した患者さん1069名を対象とした初診時における40項目から成る問診票からの調査で、「朝のこわばり」という項目はありませんが、「手足の節々の痛みがある」という項目の有症率は61.1%(40項目中18位)、症状の程度別でその症状が強いと訴えた割合(重症率)は15.8%(40項目中17位)でありました。
そしてこれらの症状は、「のぼせ」「ほてり」と同様にホルモン補充療法を施行することで改善が見られることも少なくありません。そういう意味では、これらの症状は「更年期症状」ないし「更年期障害」の一症状と考えられます。ただし、「更年期症状」ないし「更年期障害」では、明らかな他科疾患を認めないということが大前提になりますので、そういう意味では朝のこわばりや指の関節痛がリウマチに由来していないか、必要に応じて調べる必要はあります。
参考文献 :
Kasuga M, Makita K, Ishitani K, et al : Relation between climacteric symptoms and ovarian hypofunction in middle-aged and older Japanese women. Menopause 6:631-638, 2004
- Q55歳になりますが、特に口が渇きます。更年期のためでしょうか?
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A
更年期障害については、「更年期の期間に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」という定義はありますが、具体的な臨床症状の範囲などについては明確な規定がありません。したがって「口が渇く」という症状が、更年期の時期から認められるのであれば、「更年期症状」ないし「更年期障害」としての一症状と捉えられなくはありませんが、一般的な認識としては「のぼせ」「ほてり」のように「更年期症状」ないし「更年期障害」の代表的症状とまでは考えてはいません。
「口が渇く」という訴えがあった場合は、まず第一には歯科口腔外科領域の「ドライマウス症候群」や内科領域の糖尿病や膠原病(特にシェーグレン症候群)との鑑別が是非とも必要です。その上でそれらの疾患の可能性が否定された場合には、定義上は「更年期症状」ないし「更年期障害」の可能性は出てきますが。個人的には口腔内も「粘膜組織由来」であることから、エストロゲン低下によって腟~外陰部の皮膚粘膜が萎縮して発生する「萎縮性腟炎」と同様の変化を来しているのではないかと考えます。
- Qまだ40歳ですが全身がいたく眠れないことがあります。どうしたらいいでしょう。
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A
一般的に40歳では、多少の乱れはあっても月経周期は概ね正順な場合が多いと考えられ、明らかに月経周期が不順ないしは閉経後ということでもなければ、この症状は女性ホルモンの低下に由来するものではないと考えます。したがって、全身の痛みに関しては、内科領域の膠原病や状況によっては線維筋痛症も含めた神経障害性疼痛なども視野に入れて精査する必要があると言えます。
- Qホルモン補充療法を周期投与で行う場合、休薬期間は必要なのでしょうか?
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A
ホルモン補充療法の実際的な投与方法としては、まず子宮摘出者ではエストロゲン製剤単独、有子宮者の場合はエストロゲン製剤と黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤の併用が基本となります。そして併用療法の場合には、その併用の仕方として持続併用療法と黄体ホルモン製剤を周期的に投与する周期投与法が知られています。
わが国にホルモン補充療法が導入された際には、周期投与法の中でも1週間程度の休薬期間を設けるレジメが主に導入されましたので、その流れで今日でも休薬期間を設ける形での周期投与が普及していると思われます。しかしながら、欧米のテキストブック等を見るとエストロゲンは休薬せずに持続的に投与し、黄体ホルモンを月初めないしは月の終わりに12日から14日程度投与する形の周期投与法も記載されております。
何故わが国における周期投与法が、休薬期間を設ける形で普及したのかについての真の理由は判りませんが、個人的な見解としては更年期世代より前の世代の卵巣機能不全に対するホルモン治療法としての「カウフマン療法」と似ていることで、理解しやすかったのではないかと思います。
したがいまして、本質問に対する回答としては、「必ずしも休薬期間は必要ない」ということになります。特に休薬により血中のエストロゲン濃度が低下することで、その期間に身体の不調が顕著になるような場合は、欧米のテキストブック等に記載されているような休薬期間を設けない周期投与法を選択すべきだと考えます。一方で休薬期間に身体の不調を訴えない場合は、従来型の休薬期間を設ける周期投与法を継続することで問題はないと考えます。
- Q血液中のAMH(抗ミューラー管ホルモン)を更年期世代で測定することの意義を教えてください。
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A
AMH(anti Mullerian hormone:抗ミューラー管ホルモン)とは、卵巣内に存在する将来排卵に至る可能性のある原始卵胞から産生・分泌されるホルモンであり、その測定値が卵巣内に存在する卵胞の数を反映すると言われています。
元々この原始卵胞は、子宮内にいる胎児の時代から卵巣内に存在し、生後まもなくから年ごとに減少していきます。そしてこのAMH濃度は、卵胞の数を反映しますので、当然ながら加齢とともにその濃度も減少傾向を示しますが、永久的な卵巣機能の低下により月経周期が完全に停止した状態すなわち「閉経」に至る5年前くらいには、その濃度がほぼ「0」になると言われています。
したがってこの特徴を利用すれば、AMHを測定することで更年期女性における閉経に至る時期をある程度予測することが可能ということになります。しかしながら現在のところ、AMHは不妊治療における卵巣の予備能力を調べる目的では測定されていますが、私が知る限りでは更年期外来でルーチンにこのホルモンを測定している先生はほとんどいらっしゃらないと思います(ちなみに私も測定しておりません)。
その理由としては、
現在AMHの測定には、保険診療の点数がつけられておらず、自費診療となる(元々自費診療部門が多い不妊クリニックでは測定しやすいと思います)
仮にAMHを測定することで閉経時期を予測出来たとしても、更年期の様々な症状を訴えて来院される患者さんに対して、例えばホルモン補充療法を適応するかどうかの判断材料にはならないこと。すなわちエストラジオール(E2)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)などを測定する以上の更年期障害に対する診断的意義・価値を認めないということが挙げられます。ただし更年期女性のヘルスケアという観点で、人間ドックなどで自費で測定することは否定しませんし、「閉経の時期」の予測マーカーとして利用することには、大いに興味あるところです。
参考までに昨年の「Fertility and Sterility」誌に掲載されたAMHの変化率と閉経時期について14年間にわたり追跡調査を行ったという興味ある報告※を紹介致します。これは35~48歳の女性293名に対して、血清AMH濃度の経時的な測定を行い、そのエンドポイントを閉経までの期間として14年間に亘り追跡調査をおこなったものです。その結果としてわかったことは、閉経に至るまでの期間に最も影響を及ぼす因子は、AMHの減少速度であり、AMH濃度が同じレベルであってもその減少速度の違いにより閉経までの期間に約2年の差があったとのことです。それ以外の因子としては、AMH濃度の低値、年齢、喫煙が閉経までの期間を短縮される有意な要因となったということです。
※ Ellen W, Freeman et al:Contribution of the rate of change of antimullerian hormone in estimating time to menopause for late reproductive-age women. Fertility and Sterility 98:1254-1259, 2012
- Qメノエイドコンビパッチ使用時の性器出血は、どれ位で落ち着くものでしょうか(自らの体験談から)。
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A
子宮を有する方にホルモン補充療法(HRT)を行うことで生じる(期待しない)性器出血の問題は、HRT施行後早期に認められるマイナートラブルの中で最も多い症状の1つと言えます。
エストロゲンとプロゲステロンを併用する投与法のうち、周期的投与法では、HRTを行うことで子宮内膜に生じるホルモン作用により、一定期間必ず性器出血は生じます。しかしながらメノエイドコンビパッチのようなエストロゲンとプロゲステロンの持続併用投与法では、理論上は規則的ないし周期的な性器出血は認めませんが、実際には投与開始から3ヵ月くらいまでは性器出血が比較的高頻度で認められます(参考文献1、2)。
この性器出血に対する対応を誤ると、折角HRTのいい効果が認められても、患者さんの不安が増し、結果的にHRTを止めてしまうことにもなりかねません。文献的には、これらの性器出血のほとんどは、持続併用投与により子宮内膜が萎縮することで、6ヵ月から最長1年以内には消失するという報告もあります(参考文献1、3)。がしかし、個人的な意見で言えば、いつ止まるとも判らない状況で持続併用投与法を継続することは、(患者さんの心情を思えば)非常に難しいと思います。
したがいまして、投与開始から3ヵ月くらいまでで性器出血がコントロール出来なければ、周期的投与法への変更や使用する薬剤の変更などを考慮すべきだと考えます。
※参考文献
- 1)野崎雅裕:ホルモン補充療法における子宮出血とその処置。産科と婦人科 61: 771-777, 1994.
- 2)寺内公一、高 英、己斐秀樹、他:エストロゲンープロゲストーゲン持続併用投与下の性器出血に関する検討?出血スコアによる評価。日更年医誌 3: 169-173, 1995.
- 3)苛原 稔:HRTの副作用と対策。臨床医のための女性ホルモン補充療法マニュアル、医学書院、東京、137-143、1994.
- Qホルモン治療をすすめても「ホルモンは怖いもの」「不自然」と言われることがあります。そんな時の説得の仕方を教えて下さい。
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A
いつの頃からかわかりませんが、日本人には「女性ホルモンは怖いもの」「女性ホルモンを長く使用しているとがんになりやすい」といったことが、明確な根拠がないままに風評として言われてきた経緯があります。
わが国では、ホルモン補充療法(HRT)も経口避妊薬の発売も欧米に遅れること約30年ですが、いまだにその普及率が欧米並みにならないのは、このようなことと無関係ではないように思います。米国における経口避妊薬やHRTの歴史的経緯を紐解いてみると、1960年代初頭にその副作用としての静脈血栓症の問題が顕在化し、1970年代にはエストロゲン単独投与による子宮内膜癌の発症リスクの問題が取り上げられていますが、いずれも一定の改善策が施され今日に至っています。
わが国で当時これらの問題がどのように報道されたのか私は判りませんが、想像するにその当時今以上に女性ホルモン剤の使用に積極的でなかったところに、死に至るような副作用が出たとあればいよいよ「女性ホルモンは怖いもの」というイメージが染みついてしまったのではないでしょうか?
従いまして、長年植えつけられたイメージを打破するというのは、なかなか難しいものがあり、思い出してみても私が更年期外来を担当するようになった当初(1990年代初頭)は、ホルモン補充療法を勧めても拒否される患者さんは結構多かった記憶があります。
最近ではさすがにその当時よりは少なくなりましたが、私のポリシーとしては、HRTのメリット・デメリットをきちんと説明しても拒否される患者さんに対しては、無理強いはしないことにしています。その理由は、もし無理やり強行しても結果的に短期間で中断してしまう可能性が高いからです。
具体的な例で言えば、ホットフラッシュが強く、血中のエストロゲン濃度が低下していることが証明された患者さんには、第一選択としてHRTをお勧めしますが、希望されない場合は漢方製剤から開始します。漢方製剤を服用して結果的に十分な効果が得られないという体験をされ、「女性ホルモンのホルモン補充が必要だ」と自ら感じていただいた段階でHRTを開始した方が、長続きすると思います。この手法は、カウンセリングにおいてもお役に立つと考えます。
- Q女性ホルモンと「冷え」の関連について教えて下さい。
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A
「冷え(症)」という用語は、一般にもよく知られてはいますが、実は西洋医学的には明確な定義付けや診断基準が示されていないのが現状です。元々は、漢方医学の世界では重要な症状の1つであり、わが国の「和漢診療学」の創始者である寺澤捷年前千葉大学教授は、「冷え症とは、通常の人が苦痛を感じない程度の温度環境下において、腰背部、手足末梢、両下肢、偏身、あるいは全身的に異常な感冷感を自覚し、この異常を一般的には年余にわたって持ち続ける病態をいうことになろう」と述べておられます(参考文献1)。
したがいまして「冷え(症)」は、他の病気や症状と比べて(医療者が)客観的に捉えにくく、あくまで患者さん自身からの「冷えがあり、それに対して治療を希望する」という強い訴えがなければ、見過ごされているケースも少なくありません。
そのような状況なので、世の中にいったいどれ位「冷え(症)」でお悩みの方がいらっしゃるのかという確かなデータはありません。もちろん「冷え(症)」は、女性に限ったものではなく、また年代的にも必ずしも更年期周辺女性に限ったものではありませんが、個人的な印象で言えば、更年期女性にみられる症状の中で決して少ない方ではないと思います(参考文献2)。
しかしながら、更年期女性の「冷え(症)」と女性ホルモンとの関係については、のぼせ・ほてりのような血管運動神経症状とは違い、必ずしも女性ホルモンの低下で説明できるものではありませんし、またホルモン補充療法の「冷え(症)」に対する有用性もきちんと証明はされておりません。やはり今日においても、「冷え(症)」治療の第一選択薬は、漢方製剤であることに変わりはないと思います。
※参考文献
- 1)寺澤捷年:漢方医学における「冷え症」の認識とその治療。生薬学雑誌 41: 85-96, 1987.
- 2)Kasuga M, Makita K, Ishitani K, et al:Relation between climacteric symptoms and ovarian hypofunction in middle-aged and older Japanese women. Menopause 6:631-638, 2004.
- QHRTの美容的効果について教えて下さい。
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A
美容的効果すなわち女性のお肌(皮膚)に対する影響という点でみると、皮膚はエストロゲンの生殖器以外で最大の標的臓器であると言われており、エストロゲンが持つ皮膚に対する効果としては、皮膚の厚みやコラーゲン量の保持、保水効果などが挙げられます。
更年期女性では、閉経に伴うエストロゲンの低下により皮膚の乾燥感、蟻走感、腟粘膜の萎縮症状などが現れることは良く知られておりますが、文献的にはHRTの皮膚組織に対する効果(コラーゲン量や皮膚の厚みの増加)が既に報告されています。
しかしながら、現在使用しているホルモン製剤を用いたHRTでは、皮膚に対する症状がよくなっていると実感される方はむしろ少ないような印象があります。欧米では現在わが国で使用されているゲル剤とは違い、直接塗布する部分の皮膚症状の改善を目的としたエストロゲン含有クリームもあることから、そのような薬剤を使用しないとHRTの(真の)美容的効果は判断出来ないと思われます。
日本産科婦人科学会と日本女性医学学会が共同で作成したHRTのガイドラインでは、HRTの皮膚症状に対する効果の項で、「HRTを行うことにより皮膚組織の性状の改善が見込まれることは明らかであるが、その効果のみを期待してHRTを行うべきか否かについては、必ずしも積極的に推奨するだけの、特に日本人のデータが不十分である。」と記されています。
※参考文献
ホルモン補充療法ガイドライン 2012年度版。日本産科婦人科学会/日本女性医学学会編、日本産科婦人科学会事務局、東京、2012.